Column
コラム
ライフスタイルプロデューサー、下田結花さんの
「心地よく暮らす」ためのインテリアコラム
撮影/和田北斗
しもだゆか/株式会社2M house代表取締役
「モダンリビング」 ブランドディレクター(元・編集長)
2021年から東川と東京の二拠点生活を始める
「グラフ旭川」に「My Favorite Place」連載
著書に「心地よく暮らす インテリアの小さなアイデア109」(講談社)
【Vol.1】二拠点生活で知った豊かな暮らし方
私の自宅、東川2M house。大きな窓に囲まれ、周囲には田んぼが広がっている。【撮影/和田北斗】
二拠点生活を始めた理由
私は今、北海道上川郡東川町に住んでいます。東京との二拠点生活を始めてもうすぐ3年になろうとしています。
「なぜ東川町を二拠点生活の場所に選んだのですか」という質問を時々いただきますが、私の場合、二拠点生活のために東川を選んだのではなく、最初に東川と「出会った」のです。
10年前のこと。その頃、旭川周辺に住んでいる何人かの方から、「今、東川が良いよ」という言葉を聞きました。何がそんなに良いのだろう、と調べてみたところ、気になる宿やお店がいくつも出てきました。そこで2014年に東川に取材にきたのです。当時私は、住宅とインテリアの雑誌「モダンリビング」の編集長をしていました。
東川を取材するうちに、こんなところに住めたらいいなぁと漠然と思ったのですが、その時はまだ憧れでしかありませんでした。それから年に1、2度、家族と東川に遊びに来るようになりました。次第に町の知り合いが増え、土地を紹介してくれる人も出てきました。
2018年頃だったでしょうか。夫の小石至誠とこの先20年の暮らし方について話し合ったことがあります。私自身、60歳を間近にして次のステージを考えるタイミングに来ていました。
今までどおり、東京のマンションで暮らしていく選択肢もあるけれど、それは過去20年とあまり変わらない暮らしなのではないか。もう少し違った生き方をしてみたい。自然に近い場所で、人と触れ合って暮らしたい。2人ともそう思ったのです。
2019年に東川の土地と出会い、家を建てることにしました。コロナ以前でリモートワークはまだ一般的ではありませんでしたが、月に1度くらいなら数日来ることができるのではないかと考えてのことです。
設計は20年来の友人である、建設計事務所バケラッタの森山善之さんが引き受けてくださいました。設計を始めてまもなく、世の中はコロナ禍に。その後、家は2021年に竣工しましたが、すぐに住み始めることはできませんでした。
夫の小石が2019年に急性白血病を発症し、ずっと療養生活をしていたからです。そして2021年秋、肺炎で逝ってしまいました。
小石が亡くなって1週間後、私は東川の家に来ました。コロナの恩恵でリモートワークがあたりまえになり、今は1ヵ月に1度か2度、仕事のために東京の家に帰りますが、暮らしの中心は東川です。
設計と同時に考えていったインテリア
「2人とみんなの家」という意味で、東川2M houseと小石が名付けてくれたこの家はL字型をしています。周りが田んぼなので、さまざまな方向から景色を眺められるようにと、このプランになりました。
インテリアは設計の森山さんと一緒に考えていきました。一般的には設計が出来上がってからインテリアを決めることが多いと思いますが、この家では設計とインテリアは同時進行で進みました。
例えば、ダイニングテーブルを決め、その幅に合わせてキッチンのアイランドのサイズを決める、という方法です。家具のほとんどは、白木のオークなので、床材もオークにしています。
なぜ、そうした方法にしたかというと、建材や壁紙より、インテリアのほうが選択肢が限られるからです。そのため建築の内装の全てが決まってから家具を選ぼうとすると、どうしても難しい部分が出てきます。ざっくりと内装を予想したうえで家具を選び、それからもう一度内装を検証するという繰り返し。建築とインテリアがひとつになってこの家になりました。
日々感じる木の家具の良さ
自然の中にある家は、できるだけ天然の素材のものを使いたいと思いました。ですから、家具も木の家具を中心にしています。
2m60cmの10人座れる大きなダイニングテーブルは無垢のオーク材。椅子は何十脚も座り試し、自分の感触に最もぴったり合ったハンス・ウェグナーの PP58を選びました。
このダイニングがこの家の中心です。食事をする時も、仕事をする時も1日でいちばんいる時間が長いのがこのダイニングテーブル。お客様が来た時もみんなでこのテーブルを囲みます。ダイニングテーブルは、どっしりとした安定感や手触りの良さがとても大切だと思っています。
一方、ダイニングチェアでいちばん重要なのは長く座っていても疲れないこと。人が集まっての食事では3時間も4時間も座り続けることがあります。靴を脱ぐ日本人の生活では、座面の高さ(シートハイ)が少し低めの方が疲れないと感じています。うちのダイニングチェアのシートハイは42cmです。
リビングにソファは置かず、パーソナルチェアに。左はオーレ・ヴァンシャーのコロニアルチェア、右はイームズとサーリネンがデザインしたオーガニックチェア。
【撮影/和田北斗】
ソファを置かない暮らし
この家にはソファは置かないと決めていました。ソファを置くとかなりのスペースをとってしまうからです。それよりも、ゆったりとした空間を優先しました。大きなダイニングテーブルを選んだので、リビングスペースは動かすことのできるパーソナルチェアにしました。
また、映画を見るのが好きだった小石のために、ゴロゴロしながら映画を見られるデイベッドのスペースも作りました。残念ながら小石は1度もここで映画を見ることはできませんでしたけれど、今は私が愛用しています。
「ゴロゴロソファ」と呼んでいるデイベッド。ベッドマットレスにカバーリングしている。【撮影/和田北斗】
テラスでの幸せな朝食
この家でいちばん気に入っているところはどこですか、と聞かれたら、迷わずテラスと答えます。
冬の間は使えませんが、それでも春から秋にかけてのテラスでの朝食は、私にとってかけがえのない時間です。そしてそれを叶えるために、寛げる屋外用のソファを置いています。ダイニングセットでなくても、朝食やティータイムならソファに小さなテーブルで充分間に合います。
都会には一流のものが集まり、たくさんの刺激を受けることができますし、ビジネスの機会も多くあります。美術館やコンサートにもこと欠きません。一方、東川には溢れるほどの自然とゆっくりと流れる時間があります。二拠点生活の魅力は、その両方の良いところを享受しながら暮らせることです。
朝、庭に出てブルーベリーやトマトを詰み、朝ごはんを作る。そんな庭と一体になった暮らしは、東京ではできなかったことです。
自然の風を感じながら、川の音を聴きながら、変わり続ける田んぼや庭や空を眺めて暮らす。東川にいることの、なによりの贅沢だと思っています。
冬以外は、テラスで朝食をとる。季節によって変わり続ける景色を眺め、川の音や鳥の声を聞く大切な時間。【撮影/和田北斗】
旭川ふるさと納税の旭川家具の中から、特に私の好きな家具、こう使って欲しいと思うものをセレクトしました。ファブリックも私が選んだ特別仕様のものをご紹介します。
【サイドテーブル】
【撮影/和田北斗】
椅子だけでは足りない
ソファにしろ、パーソナルチェアにしろ、そこに座って何かする時、ものを置く場所が必ず必要になります。グラスを置く、ティーカップを置く、本を置く、メガネを置くーー小さくても手が届くところあること。それがサイドテーブルの役割です。
ソファのそばには、安定感のある4本脚がおすすめ。脚が細く天板が薄く見えるので、存在感が強すぎないのも良いところ。それでいて自由に動かせる軽さも魅力です。
【撮影/和田北斗】
ちょっとした仕事は場所を変えて
サイドテーブルでも、ラップトップのパソコンなら置くことができます。ちょっとした仕事は、気持ちの良い場所で。例えば、窓際でコーヒーを片手に。このサイドテーブルは、斜めの一本脚なので手前にテーブルを引き寄せて作業が可能。
パーソナルチェアやソファでも、手元に引き寄せられるサイドテーブルとして活躍します。
【撮影/和田北斗】
「季節のしつらえ」を飾る場に
サイドテーブルの活用法をもう一つ。
サイドテーブルはどこにでも移動させることが可能です。お正月、ひな祭り、クリスマスなど、季節のしつらえを置く場所に困った時は、サイドテーブルを「舞台」にしましょう。廊下の突き当たりや、壁際など、好きな場所に飾るスペースを作ることができます。
動かすことができる小さな飾るスペースがあると、暮らしが楽しくなります。